製薬業界を知る、迫り来る2025年問題

2025年問題を控え様々な問題が噴出している日本の医療業界。少子高齢化、医療費の高騰、人材不足などネガティブな言葉がメディアを飛び交うなか、逆にそれは課題解決力が求められ、やりがいにあふれたチャレンジングな業界ともとらえられます。今回は現役医師で医療ジャーナリストでもある松村むつみ氏に、医療業界の現状と課題、そして未来像について教えていただきます。
わたしが医師を目指したのは、「医学を修めれば、多少なりとも世界の真実がわかるのではないだろうか」と、中学や高校の頃に思ったからです。もともと哲学書などを読むのが好きだったので、この世界に「ほんとうのこと」があるのだとしたら、是非知りたい。そのような知的好奇心がありました。しかし、なってみて思うのは、良くも悪くも、医師というのはあまり知的な職業ではないかもしれない、ということです。知力よりも体力のほうが必要とされる場面も多々あります。

医療業界とは
医療業界は、これまではやや特殊な業界だったといっても過言ではありません。他の業界の常識は医療業界の非常識のようなところがありましたし、医師のキャリアと深くかかわってくる「医局講座制」(※1)のような制度は他の業界にはありません。わたしは、親や親戚に医師がひとりもいないので、医療業界に足を踏み入れてみてその特殊な文化に驚きました。しかし最近は、医師の「労働」に対する考え方の変化や、研修医が自由に研修先を選べるようになったこと(2004年新臨床研修制度施行)により、だんだん特殊な文化が薄れ、今後もその傾向は続くように思います。
こうした医療業界が働く場所としてどのような業界なのか、市場動向や傾向から見ていきましょう。
※1:医局講座制
大学病院には診療科ごとに「医局」と呼ばれる組織、そして教育研究を行う大学医学部には「講座」という組織がそれぞれあり、国内の大学のほとんどは講座のトップである教授が診療科のトップも兼ねることが多いため、権力が集中しやすいといわれています。

近い将来、医療が日本経済を左右する重要産業に

このグラフは産業別就業者数の推移を表したグラフです。高齢化の進展で医療者は増え続け、2030年には、製造業、卸売・小売業を抜いて、医療・介護の就業者数がトップ。医療が、日本経済を左右する重要な産業になることが見込まれています。4大産業の中で唯一安定した右肩上がりの成長を見せていますが、景気の影響を受けにくい安定した業界と安穏としてはいられません。今後少子高齢化が進むことで起こる2025年問題に代表されるように日本の医療業界は過渡期に来ています。そのなかでこれから社会に出る皆さんに何ができるのか、なにがしたいのか、しっかりと見極めてみてください。

(単位:万人)
出典:「平成27年 労働力需給の推計」独立行政法人労働政策研究・研修機構

医療業界で働く人々

医療業界では、医師以外にもさまざまな人が関わっています。また医師にもいろいろな種類があり、一般によく知られている内科医、外科医、眼科医、整形外科医などのほかに、普段は患者さんに会うことなく裏方のように病院内で診断に携わる医師もいます。病理医や放射線科診断医がそれにあたり、わたしも放射線診断に日々携わりCTやMRI、PETなどで病気の診断を日々行っています。また、医師以外の、看護師、薬剤師、放射線技師、検査技師、理学療法士、作業療法士といった人々は「コメディカル」とよばれ、医師とこれら各々の職種が協力・連携して患者さんの診療に当たっています。

また病院関係者だけでなく医療業界に関連する職種まで視野を広げると、その活躍フィールドは広がります。

meeting of doctors from above

代表的なもののひとつが医療機器業界です。医療機器は大きく二つのカテゴリーに分類され、病気やケガの治療に使用される「治療系医療機器」。カテーテルやペースメーカー、人工関節などがそれにあたります。もうひとつは治療を行う前のさまざまな診断や測定を行うための「診断系医療機器」。CTやMRI、超音波画像診断装置や内視鏡などがそれにあたります。経済産業省によると市場規模は2015年度で約2.7兆円(※2)。特別大きな市場ではありませんが、常に安定した成長が見込める優良業界です。

次に製薬・医薬品業界。富士経済によると日本の医薬品市場規模/メーカー出荷ベース(※3)は2018年以降、毎年0%台後半から1%台の低成長で推移し、2024年に9兆5528億円になるとの市場予測をまとめました。医薬品は新薬とジェネリックと2つの種類に分かれ、日本ジェネリック製薬協会によるとその割合は数量ベースで、新薬:約31%、ジェネリック:約69%(※4)。国は現在、「2020年度9月末までに、後発医薬品の使用割合を80%とし、できる限り早期に達成できるよう、更なる使用促進策を検討する」(経済財政運営と改革の基本方針2017)と掲げており、ジェネリック医薬品のシェアが拡大していくことが予想されています。

このように医療機器メーカーで機器の開発に携わる。また、製薬・医薬品メーカーでの研究・開発、そしてMRになるなど、医療業界は理系・文系学生の両方に広く扉を開いています。

※2:経済産業省/我が国医療機器産業の現状より
※3:富士経済HP/医療用医薬品 国内市場調査より
※4:日本ジェネリック協会HPより